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留学同京都綜合文化公演2022「声をさがして」
《朝鮮新報》2022.02.22
留学同京都綜合文化公演2022「声をさがして」
留学同京都綜合文化公演2022「声をさがして」が20日、京都市国際交流会館で行われ、210人が参加した。文化公演はコロナ禍での活動が続く中でも、止まることなく試行錯誤を重ねてきた留学同京都の今年度の活動の集大成となった。文化公演では、駒澤大学における在日朝鮮人学生の民族名使用問題、日本社会や家族との関わりの中での学生たちの葛藤を題材にした演劇が披露された。演目にはまた創作舞踊やサムルノリも織り込まれた。
学生たちは、公演の開催を通じて、無知と差別がはびこる社会そしてコロナ禍がもたらした困難のなか、今後の活動の在り方もまた展望していた。
時代の流れとともに在日朝鮮人の様相は変化を遂げ、日本籍朝鮮人やダブルである朝鮮人の割合は日を追うごとに増えている。いわば自分の名前、ルーツ、民族に「何の愛着もなかった」在日朝鮮人が、自ら差別される側に立ち、それを克服しようとしたとき、一体どうすればいいのだろうか。
この日、学生たちはこう観客に問いかけた。
演劇「声をさがして」の劇中で描かれたのは、父親が在日朝鮮人3世、母親が日本人のダブルルーツで日本籍をもつ学生の葛藤と成長だ。大学のサークル活動として「朝鮮文化研究会」に所属し自身のルーツを学び、差別是正のため街頭に立った主人公に浴びせられたのは、無知と偏見に満ちた声であった。
―「正義感」でやっているつもりでも、周りに合わせないと、それはただの自分勝手な主張になっちゃうよ?
―自分の立場をはき違えるな、分をわきまえろ
攻撃の的にされ、さらには家族との軋れきに傷つき、「活動するほど不安になる」「自分が分からない」と苦しむ主人公。そのような状況のなか、先代たちの声がかのじょを奮い立たせる。「君たちの目指す方向は間違っていない。『家畜は家畜らしく』『靴は靴らしく』分をわきまえろ、それが君らのあるべき姿だと押し付ける社会を成り立たせる者たちが一番悪い」。そして活動をともにし、ともに「声」をあげる仲間たちの存在も、背中を押した。
「自分だけの『理想』ではなく、同じ苦しみをもった仲間たちと、先代たちと、一緒に笑い合えるような『理想』のために活動を続けていきたい」
公演は、最後に学生たちの決意表明で幕を下ろした。
「私たちは自分自身の心の奥にある靄のかかった『声』、そして社会に埋もれてしまうようなたくさんの『声』を探し出して、『声』をあげ前に進みます」
惜しみない拍手を送る観客の中には、主人公と同じような境遇にある人もいた。大阪から会場に訪れた金サランさん(33)もその一人。「私もダブルで日本国籍。自分を隠して生きてきたが、民族団体と出会って自分のルーツや民族名を知り、今は何の違和感もなく名乗れている」という。金さんは、「劇のクライマックスで、主人公が自分の母親をはじめて『オモニ』と呼ぶシーンがあった。私もいつか、お父さんを『アボジ』と呼べるようになりたい、そんなことを思った」と笑顔を見せた。
客席には、後輩たちの雄姿を見守る留学同京都の卒業生の姿も多く見られた。朴裕薫さん(24)は、「社会に出ると、思った以上に問題は表面化せず見えづらい。後輩たちの姿を見て、知識を積むほど生きづらさを覚え、葛藤した留学同での経験を思い出した。これからどう生きるかを改めて考えさせられた」と感想を述べた。
思いを馳せる/多様化する同胞学生たちと共に
2年におよぶコロナ禍は、留学同活動にも変化をもたらした。留学同ではこれまで、各大学に直接出向き、朝鮮にルーツのある学生たちを探し出すなどしてきたが、感染症拡大防止のための行動制限によってそのような取り組みは困難を極めた。本来なら日本学校出身の同胞学生や、「民族に触れたことのない」同胞学生たちが多くいるはずであるが、留学同京都の同盟員の割合は現在、朝高出身生が圧倒的多数を占めている。
「これからの運動は、一層、多様な同胞学生たちとともに繰り広げていくものだと思うが、コロナ禍の打撃は大きかった。そのような状況の中、民族教育を通して当たり前のようにアイデンティティーを養ってきた朝高出身の学生たちと、日本学校にしか通ったことのない学生たちとが留学同という場所でどのように心を一つにしていけばいいのかと考えた時、まずは想像力が必須だった」(留学同京都・曺永気副委員長)
そのような思いから、今回の演劇では主人公を日本学校出身でダブルルーツの日本籍朝鮮人に設定し、多数を占める朝鮮学校出身の学生たち自身がその思いを疑似体験できるきっかけを作った。また、世代交代が進む中、1世、2世の生きざまに思いを馳せることも重要だと捉えて、先代たちの語りを、実話をもとに劇中に盛り込んだ。
さらに、家の中でも「自分らしくいられない」学生の悩みや、「親の管理を離れられない子ども」というコロナ禍で顕著に表れた家族の在り方に関する問題にもメスを入れた。
公演の準備過程で学生たちは、名前や家族、在日朝鮮人の歴史について学び、個々人の経験を交えて討論をするなどし、自分自身と向き合っていった。
金英寿さん(3年)は、「朝高まで民族教育を受けた。だから日本の大学の中でも当たり前のように、迷わず、自身の民族名を名乗り、ルーツを表明できた。でも留学同の活動を通して、それぞれ育ち方や背景にあるものが違う在日同胞がこんなにも多いということ、留学同ではじめて自分のルーツを学ぶ人もいると知り、考え方も大きく変わった」と話した。
学生たちはまた、先代たちへの思いも口にした。
「差別が続いているとはいえ、時代が変わって、直接暴力をうけたり目に見える形でのあからさまな差別体験は少なく思える。危機意識も薄れがちだ。だから、演劇を通して先代たちの実体験に触れた時、植民地時代から続く差別の構造について考えることができた」(南侑希さん、1年)
「文化公演の準備過程や留学同での学びは、今の自分たちがいるのは1世、2世の闘いがあってこそなんだと思い出させてくれる。先代たちに負けないように、今の時代に、自分たちができることを模索し全力で行動していきたい」(金世鎭さん、1年)
留学同京都の学生たちが展望するこれからの活動。それは、1世、2世らが紡いできた在日朝鮮人の歴史と、今後も多様化する朝鮮ルーツを持つ青年学生たちにフォーカスし行動していくことだ。この日の公演は、その展望を見出すうえで貴重な場となっていた。