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民族情緒と躍動感あふれる作品/在日同胞1世画家・呉炳学さんが絵画展
2021.07.02
油彩画20点を展示
在日朝鮮人1世画家・呉炳学さん(97)の絵画展「呉炳学 三浦千波展―呉炳学97歳の世界を中心に-」が6月21~27日にかけて東京・銀座のギャラリー向日葵で開催された。今回の展示会は、呉さんと師弟関係にある画家・三浦千波さん(65)が共同で企画した。
呉さんは、日本の植民地統治下の1924年に平安南道平城で生まれ、19歳まで平壌で暮らした。42年に単身東京へ渡り、東京芸術大学に入学するも中退。その後、欧州などを渡り歩きながら独学で技法や知識を身につけ、画家としての人生を一筋に歩んできた。
会場には1950年に描かれた「わらじを作る人」(727×606mm)から今年の新作「花」(910×606mm)まで、呉さんの80年以上に及ぶ画家人生で描いてきた作品の中から厳選された油彩画20点が展示された。特に、朝鮮が世界に誇る名山を描いた「金剛山」(1167×803mm)や「仮面舞」、「白磁」など、民族情緒と躍動感あふれる作品が来場者の目を引いた。
一方、岩手県大船渡市出身の三浦さんは故郷の風景を描いた「三陸海岸」(2019年、410×242mm)をはじめとした油彩、水彩画6点を出展した。
展示会の初日と最終日には呉さんが会場を訪れ、自ら作品について解説しながら来場者らと談笑する一幕もあった。
初日に会場に訪れた都内在住の60代男性は呉さんの作品を見ながら「日本人にはできない大胆な表現。ダイナミックで力強い作品に胸を打たれた」と感想を述べた。
「目標」と「夢」ある限り
「呉先生の絵は感動や生命力を人々に伝えることができる『本物』の作品。民族的なものを描きながらも目線は世界的で一定の枠にとらわれないスケールがある。90歳を越えてもなお進化しつづけ、自身の感性を表現し続けられるのは本当にすごいこと」
三浦さんは、50年近くに渡り薫陶を受けてきた師匠の作品について手放しで称賛する。「呉先生と同じ空間に自分の作品が並ぶのは恐れ多いけど、本当にうれしいし光栄だ。もっと多くの人たちに先生の作品を知ってもらえたら」(三浦さん)。
若年で日本に渡ってきて以降、異国の地で苦しみながらも、ただひたすらに画業に励んできた呉さん。「美意識のルーツ」である故郷・平壌を心に抱き、ヨーロッパの技法に学びながらも仮面や磁器など、朝鮮民族の伝統的なものをモチーフに描き、高い評価を受けてきた。2001年には在日同胞や日本市民らの協力のもと画集の出版も叶った。
97歳を迎えた現在も毎日5時間は神奈川県川崎市にある自身のアトリエで筆をとり、創作を続けている。そんな呉さんは膝を痛めている以外は健康そのもので、3食欠かさずとるという食事が毎日の楽しみだという。自らの師と仰ぎ、幼いころからあこがれ続けたフランスの画家・ポール・セザンヌに近づくことが今も昔も変わらない目標だ。
目標のほかにも、呉さんには夢がある。それは故郷・平壌、そして統一した朝鮮で自身の個展を開くことだ。いつかそれが実現したときのために、今まで描いた作品のほとんどを自身の手元に所有しているという。
「はっきりとした夢や目標を持ち続けてこそ生きる意味がある。体は衰えたが、絵に向き合う姿勢や情熱は若いころから何一つ変わっていない。最低でも100歳までは頑張り、自分の夢と目標を追い続けたい」(呉さん)
2024年には都内で呉さんの生誕100年を記念する展示会が開かれる予定だ。
(丁用根)