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平壌美術(ピョンヤン・アート)―朝鮮画の正体
文 凡綱【著】《ムン/ボムガン》/白 凛【訳】《ペク/ルン》-朝鮮画の正体-
絵画の中の朝鮮。
2018年に開催された光州ビエンナーレでひときわ異彩を放った作品群が、朝鮮民主主義人民共和国のトップクラスの画家が集まって描く「朝鮮画」の展示であった。そのキュレーションをした文凡綱が、アーティストのアトリエ訪問やインタビュー、集められた資料を駆使し、平壌美術の最も核心的な部分であるこの絵画について6年をかけて執筆したものが本書である。社会主義リアリズムの芸術の典型的な形態でありつつも、独自の表現方法を追求してきた「朝鮮画」。朝鮮半島に平和が訪れることを願う著者が、芸術家としての視点と学術的な研究の両面を踏まえてプロパガンダとアートの境界線上に存在する平壌美術の現在を描く。
巻末に2018年の光州ビエンナーレでの朝鮮画展の展示にまつわる顛末を特別収録。
【目次】
日本語版に寄せて
序画
本書におけるいくつかの試み
TWO KOREAS
朝鮮画は東洋画か
朝鮮画は果たして東洋画なのか
一つの穴を掘り下げた朝鮮画の時間
平壌美術に対する固定観念
知性の墓に告ぐ
朝鮮画の母は誰か
中国は朝鮮画にいかなる影響を及ぼしたか
文化大革命:文化と知性は首をすくめる
共和国美術Ⅰ:1950年代共和国の政治的状況
共和国美術Ⅱ:朝鮮画の発生と隆盛
朝鮮画と邊月竜
共和国美術Ⅲ:朝鮮画に関する共和国内部での見方
韓国の共和国美術研究
1950~60年代の朝鮮画
1950~60年代の朝鮮画に目を向ける
ケーススタディⅠ 近園 金瑢俊
水
ケーススタディⅡ 青谿 鄭鍾汝
1950~60年代の朝鮮画代表作
ケーススタディⅢ 一観 李碩鎬
斉白石、李碩鎬に出会う
1970年代の主題画
朝鮮画を分析する:「降仙の夕焼け」を通して考察する主題画
1973年以前の主題画分析Ⅰ「武装獲得のために」
1973年以前の主題画分析Ⅱ「機通手」
1973年以前の主題画分析Ⅲ「進撃の渡し場」
1973年以前の主題画分析Ⅳ「老黒山の勇士たち」
1970年後半の主題画「頼みを残して」と小結
Of course not!
朝鮮画とロマンティシズムのランデブー
新派と叙情は現代性の忌避児なのか
主題画に現れる叙情性をどのように見るのか
1980年代以降の朝鮮画
東洋画の伝統を蹂躙する
朝鮮画の傑作
「かつての溶解工たち」1980年の麒麟児
「金剛山」鄭永萬の火花
没骨の鬼才 チェ・チャンホの人物画と山水画
共和国朝鮮画とチェ・チャンホの山水画
2000年代序盤の主題画
「保衛者たち」叙情性の秀でた主題画
革命
「海金剛の波」作家 金成根
「雪中を駆ける虎」渇筆と没骨の詩的融合
「国際展覧会場で」日常の発見
「帰り道にて」、没骨技法で描いた少女たち
没骨VS.鉤勒
朝鮮画、集体画の花を咲かせる
朝鮮画を凝集したもの 集体画
集体画の作業工程との出会い
朝鮮画による集体画、その理由
「血と涙の年1994年」第1篇:雨の降る夜、人民とともに
「血と涙の年1994年」第2篇:万寿台の血と涙
「千年の責任、万年の保証」[s1] チェ・チャンホ軍団の底力
「革命的軍人精神が躍動する熙川2号発電所堰堤建設戦闘場」
「新しい波が広がる」鑑賞者の嘲笑を予見する
笑顔が問題なのか?
集体画は芸術か、完全な宣伝画か
「出鋼」[s2]
「自力更生」
「青年突撃隊(白頭大地の青春)」[s3]
「平壌城の闘い」
朝鮮画は東洋画のダイアモンドか否か
「カジンの勇士たち」ジェリコーのロマンに匹敵する
共和国の集体画とソ連の全景画
朝鮮画と韓国画
韓国画の現在地にスポットライトを当てる
韓国画ケーススタディ 李珍珠と李銀實
朝鮮画と韓国画 その人物画の現住所
朝鮮画の人物描写、東西の境界を壊す
フォトリアリズムと断絶した写実主義
東洋画:人体の写実性に対する覚醒
稀代の新生児 同時代美術の異端児
韓国画と伝統の命脈
世界美術史における再評価を
『平壌美術 朝鮮画の正体』結びに
平壌美術研究のための提案
付録
付録I 雲峰リ・ジェヒョンと『雲峰集』
共和国の美術と美術家
付録II 朝鮮画:何にそよぐように平壌、そして彼女に出会った
著者後記
訳者あとがき
人名索引
作品索引
参考文献
【著者】
文 凡綱(ムン・ボムガン)
ジョージタウン大学美術科教授。ビジュアル・アートを専門にしており、同大学における講義は30年以上にわたる。大韓民国大邱(テグ)生まれ。ソウルの西江大学校(Sogang University)で新聞放送学を学んだ。卒業後アメリカ合衆国に留学し、初めて美術に接した。カリフォルニア美術大学(California College of the Arts)で美術の学士、メリーランド大学(University of Maryland)で修士号を取得した。その後アメリカ合衆国でアーティストとして旺盛に活躍する中で2011年に偶然、朝鮮画に関心を抱くようになり平壌の美術界を初めて訪れた。それ以来、朝鮮美術の現場に飛び込み、6年の間(2011年~2016年)に9回平壌を訪問し、資料の収集、美術家たちへのインタビュー、数多くの朝鮮画の分析を行なった。また、これまでアメリカ合衆国の大学やアートセンターで朝鮮画についての講習を数十回行なってきた。2016年にワシントンD.C.のアメリカン大学美術館(American University Museum)で大規模な朝鮮画展を企画開催し、国内メディアの注目を集めた。2018年の光州ビエンナーレでの朝鮮画展は世界のメディアが関心を寄せた。『평양미술 : 조선화 너는 누구냐』(本書原著、2018年)と『North Korean Art: The Enigmatic World of Chosonhwa』(2019年)を刊行しており(両方ともソウルセレクション)、両書に書き切れなかった内容については、現在、共和国の文化についてのエッセイ集となる『平壌文化』を執筆中である。
【訳者】
白 凛(ペク・ルン)
1979年島根県生まれ。専門は在日朝鮮人美術史。独立行政法人日本学術振興会特別研究員PD(大阪大学)。一般社団法人在日コリアン美術作品保存協会代表理事。朝鮮大学校(東京)教育学部美術科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒、東京大学大学院総合文化研究科にて2020年3月に博士号取得(学術)。博士論文をもとに『点をつなぐ美術史――1950年代の在日朝鮮人の美術史(仮)』(明石書店)として2021年出版予定。