在日本朝鮮文学芸術家同盟

鄭梨愛さんの作品が奨励賞に/VOCA展2021で

《朝鮮新報》2021.01.08

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「アウトサイドな私」が受賞した意義

平面作品「Vision」。作品の両端には、祖父を看取る鄭さんの母親(左端)と、幼少期の母親を育てる祖母(右端)の姿がプリントされた。(以下写真はすべて本人提供)

作家・鄭梨愛さん(朝鮮大学校美術科非常勤講師)の作品が、若手作家たちの登竜門といわれるVOCA(ボカ)展2021で、準グランプリに値する奨励賞を受賞した。同展では、過去に朝鮮大学校美術科卒で鄭さんと同期の李晶玉さん(2020年)、鄭裕景さん(2019年)が同じく奨励賞を受賞しており、2人に続く快挙となった。

制作のようす

VOCA展は、将来性のある若い作家たちの支援を目的に、1994年から毎年開催されている美術展。日本各地の美術館に勤める学芸員やジャーナリスト、研究者らが推薦人となり、かれらに選ばれた40歳以下の若手作家たちが平面作品の新作を出品するという方式によって、「未知の優れた才能を紹介」してきた。これまで同展からは、やなぎみわ(現代美術作家)や蜷川実花(写真家)、清川あさみ(アーティスト)といった近年多方面で活躍する作家が多く輩出されている。

今年は全30人(組)の出品者の中から、選考委員らの審査を経て、鄭さんはじめ5人が受賞した。

試作品

今回、鄭さんが奨励賞を受賞した作品「Vision」は、平行に連なる5枚の半透明の布に、特殊なプリント加工を施した平面作品。それぞれの布には、作品の被写体となる母方の祖父母と母親の姿、祖父の故郷・全羅南道の風景などがプリントされており、正面から見ると、まるで一枚の布に描かれているかのように淡く映し出されている。

試作品

鄭さんは、同作品の特徴について、歌曲「鳳仙花」や「喪輿歌(サンヨソリ)」の歌詞を日本語と朝鮮語でプリントしたことをあげながら「祖母が好きだった『故郷の春』から行き着いた『鳳仙花』、そして『鳳仙花』と同じ4音節で類似する詞が含まれた『サンヨソリ』。これらの歌には、ある人が死を迎え、その人が居なくなった世界で、生き残った人々が感情を共有し治癒するという共通の役割がある。タイトル名にした『Vision』は訳すと幻影やまぼろし、展望といわれるが、人間の生死と、『個』が抗うことのできない不条理や負の出来事などを前に、人々がそれぞれの感情をどう治癒し、どう希望を見出していくのか、そのことについて祖父母の個人史と二つの歌詞を通じ考えた」と語った。

とりわけ特徴的なのは、自身のルーツや歴史とコロナ禍という未曾有の危機のなかで深刻化した社会の不条理を見据える鄭さんの思索が作品全体にちりばめられていること。

母方の祖父母と母親の姿がプリントされた布

鄭さんは、今回の受賞について「正直受賞までは考えておらずびっくりした。コンペなどは選ぶ人がいて、コンペそのものの性格もあるので謙虚に受け止めようと思う」と感想を述べる一方、同期2人に続く受賞に「日本美術界のなかで朝大美術科卒の私たち、つまりアウトサイドな私たちが奨励賞になったことに意義があると思っている。地道な活動があっての今だと思う」と感慨深げに語った。そのうえで「自分のオリジナリティを生かし、今後も固定化されない視野の広い活動をしていきたい」と意気込んだ。

「VOCA展2021-現代美術の展望―新しい平面の作家たち」は、来る3月12日から、東京・上野の森美術館で開催される(~3月30日まで)。

(韓賢珠)

活動情報

―展覧会

「NITO04」

会期:2021/1/16(土)~2/8(月) 金,土,日,月,祝日のみ営業

会場:アート/空家 二人

「平成美術:うたかたと瓦礫デブリ 1989-2019」

会期:2021/1/23(土)~4/11(月)

会場:京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ

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平成美術:うたかたと瓦礫デブリ 1989–2019 京都市京セラ美術館の新館「東山キューブ」では、1980年代後半より現代美術について鋭い批評活動を継続的に行なっている美術評論家の椹木野衣を企画・監修に迎え、独自の視...

「VOCA展2021 現代美術の展望-新しい平面の作家たち」

会期:2021/3/12(金)~3/30(火)

会場:上野の森美術館

―掲載

「美術手帖2021年2月号」

特集 2020年代をつくるニューカマー・アーティスト100(2021/1/7発売)

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