在日本朝鮮文学芸術家同盟

真摯にピアノに向かう実直な演奏/金蓮姫ピアノリサイタルを聴いて

《t朝鮮新報》2020.11.04

金蓮姫さん

「金蓮姫ピアノリサイタル-ピアノと共にVer.4-」が9月25日、札幌のザ・ルーテルホールで行われた。

金蓮姫さんは、朝鮮学校教員として、また朝鮮のピアノ作曲家としても数多くの功績をあげてきた。今回のリサイタルでは、ベートーヴェン、ブラームス、シューマンなど、ドイツの楽曲で構成されたプログラムが織りなされた。

コロナ禍の中、ソーシャルディスタンスをとった半数の座席での公演となったが、会場には、子どもから大人まで、彼女を慕う数多くの教え子たちに囲まれた温かな空気が流れていた。

リサイタルは、今年、生誕250年となるベートーヴェンの有名なピアノソナタの一つ、作品31-2「テンペスト」で始まった。最初こそ緊張感が伝わってくる様子があったが、どの楽章も迷いがなくパワフルに進み、特に第3楽章は疾走のごとく一気に駆け抜けるような演奏であった。続くブラームスの小品、作品118より第1曲はとても壮大に、そして第2曲では金さんの豊かな歌心が存分に披露された。

休憩をはさみ、後半はシューマンの名曲で8曲からなる作品16「クライスレリアーナ」が演奏された。同作品は、シューマンが後に妻となるクララと交際中、クララの父から猛烈な反対を受け会えない期間に作曲された。シューマンがクララに対する熱い思いと苦悩が作品に込められているといわれており、演奏は8曲それぞれがシューマンの様々な感情を表しているのを代弁するかのようであった。急緩で繰り返されるが、とりわけ急の部分では、鋭いリズムと見事なスピード感が金さんの強い思いと意思を聴くものに真っすぐ訴えかけてくるような演奏であった。

あっという間の1時間強のコンサート、アンコールとして弾かれたのは、彼女のお家芸とも言える自作で、アリランと赤とんぼを掛け合わせた即興演奏。表現力の長けた彼女ならではの1曲を聴かずしては帰れないと思った人は、私以外にもたくさんいたことと思う。リサイタルは盛大な拍手で締めくくられた。

金さんがひたむきにピアノに向かう姿が全体を通してとても印象に残っている。

毎回、趣向を凝らして開催される金さんの演奏会だが、今後もどのような会になるのかを楽しみにしている。金蓮姫さんのまだまだ続くピアノ道の沿道で、ときには一緒に応援していきたいと思っている。

(ピアニスト・金貴順、室蘭市在住)

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