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〈第53回学生中央芸術コンクール〉作品に込めた思い
目 次
〈第53回学生中央芸術コンクール〉作品に込めた思い①大阪中高吹奏楽部
《朝鮮新報》2021.11.26
在日本朝鮮人中等教育実施75周年記念第53回在日朝鮮学生中央芸術コンクール( 11月3~4日、都内各施設)では、各地の朝鮮学校生徒たちが声楽、民族器楽、洋楽器、舞踊の4部門で全103演目を披露した。各部門で金賞に輝いた学校の生徒や指導員の喜びの声、作品に込めた思いを4回にわけ紹介する。
祖国への思い、音に込め
大阪中高吹奏楽部は高級部洋楽器合奏部門の舞台に立ち、朝鮮の名曲「내 나라」(私の国)を中高部員21人で披露。見事、金賞を受賞した。文亜瑶主将(高3)は「技術的な部分はもちろん、今年は演奏を通じて自分たちの思いや考えを伝えることを意識し部活動に励んできた。その成果が中央コンクールで発揮できた」と胸を張った。
今年度、同部は地区代表として8月の「第60回大阪府吹奏楽コンクール」に出場し、銀賞を受賞。高日徳指導員によると、そのときに披露した曲は高い完成度を誇っていたが、生徒たちはあえて、新たな作品にチャレンジすることを選択したという。
「내 나라」には、今年もコロナの影響で行くことがかなわなかった祖国へのあふれる思いを込めた。演奏練習に入る前には同部の恒例となっている「曲想ノート」を作成。曲の背景、パートごとにどのような気持ちで演奏するのかを部員たちで共有した。
「最初のパートでは美しい祖国の情景を、中盤では植民地により国を奪われた悲しみや苦しみ、そして終盤では愛する祖国を取り戻した人民たちの歓喜を表現した」(文主将)
決して順風満帆ではなかった。学校行事などが重なり、コンクールに向けた練習期間は1カ月弱。大阪を発つ前の最後の練習では不安からか音が合わず、部の雰囲気が落ち込んでいたという。
それでも大会直前に話し合いの場を設け「お互いを信じよう、聴いてくれる人たちに自分たちの思いをしっかりと届けよう」という思いを再確認。コンクール前日、本番前最後の演奏では21人の音がぴたりと合った。部員たちは熱い涙を流したという。
6日にオンラインで行われた成績発表は、同校の芸術部員らが一つの教室に集まりともに視聴。金賞発表の瞬間、吹奏楽部の部員らはひときわ喜びを爆発させたという。尹春稀さん(高2)は絶対に「金賞をとれるという自信はあった。本当にうれしい」と笑顔で話した。
生徒たちの大きな力となったのが卒業生をはじめとした同胞たちの存在。吹奏楽部OB・OG会は新しい楽器を寄贈し、大阪吹奏楽団のメンバーたちはことあるごとに学校を訪れ、練習を指導した。また昨年の卒業生たちが楽器の運搬を手伝った。「いろんな同胞たちのサポートあっての金賞だ」(高指導員)
同部は12月26日に定期演奏会を控えている。部員たちをけん引してきた8人の高3にとっての最後の舞台だ。
文主将は「中高6年間の部活動で支えてくれた人たちへの感謝の気持ちを抱き演奏したい。そして自分たちの姿で後輩たちへ何かひとつでも残してあげられるよう、残りの期間目いっぱい練習に励みたい」と力を込めた。
(丁用根)
〈第53回学生中央芸術コンクール〉作品に込めた思い②広島初中高舞踊部
《朝鮮新報》2021.11.26
人間性育んだ貴重な経験
広島初中高舞踊部は、高級部で3作品(創作群舞と重舞、独舞)、中級部で1作品(創作重舞)の全4作品で今コンクールに挑み、結果オール金賞の成果を残した。
「金賞と聞いて純粋に嬉しかった」と黄由紀主将(高3)。しかし、ここまでの道程は決して順風満帆ではなかった。
まん延するコロナの感染状況から、各地で発表会を分散開催する形式がとられた昨年。今回2年ぶりにコンクールの開催が決まったという知らせを受け、同校舞踊部では中高級部ともに、参加するか否かの最終判断を部員たちに託したという。
「当初は中央コンクールに参加するよりも、これまでの感謝の思いを伝える意味でも、両親はじめ広島の同胞たちの前で成果を発表すれば良いのではないかとなり、不参加の選択をした。だけどよくよく考えてみると、機会があるのにそれを自ら手放すのはどうなのだろうとなって。皆でもう一度話し合って最終的に参加することに決めた」(黄さん)
一方で今年は、審査基準がこれまでと異なり、創作作品の場合、作品のテーマや構成をより重視することになった。それにより、部全体の士気を高めるにも時間を要したという。参加を決めてからの練習では「技術ももちろんだが、参加する意義や作品に込めた思いを全員が共有できるように、気持ちを一つにしていくことに重きをおいた」(李京香副主将・高3)。
高級部舞踊部を指導した鄭慶実教員(22)は今年4月に母校・広島初中高へ赴任。鄭教員にとって、人生初の創作作品となった群舞「변함없으리(変わらぬ思い)」は、太陽と、その動きに合わせて花を咲かせる向日葵を、祖国と在日同胞の関係性として紐解いた作品。75年の年輪を刻んできた学校そして同胞社会が、昔も今も祖国とともにあるという在日同胞の原点について「もう一度確認し、その系譜をつないでいこう」という強いメッセージが込められている。「場面ごとにどのような感情を込めるのか、自分の構想と部員たちの考えをすり合わせながら作品を仕上げていった」。普段、初級部教科を担当するため、高級部担当の教員に比べると、生徒たちの日常が見えにくく「最初は悩みにもぶつかった」と鄭教員。しかしコンクールへの参加を通じて見えた生徒たちの成長は、今後への期待と自らの責任感を覚えるきっかけになった。
「怒涛の毎日のなかで、コンクールに出ることを部員たちが自ら決断し、意思統一をはかり、練習に励んだからこそ、部活動を通じて人間性が大きく成長したのを感じた。これからも、大事な教養の場として授業同様に部活指導にも精を出していきたい」と話した。
今年度の高級部部員11人全員が立つ初めての舞台となった中央芸術コンクール。そのことへの嬉しさを語った李京香副主将は「感慨深く刺激を受けた期間だった」と振り返り、また黄由紀主将は「ウリハッキョに通いながら学ぶ舞踊の価値や楽しさを、これからも自分の姿を通じて後輩たちに伝えていきたい」と意気込みを語った。
舞踊は生活の一部
一方、学校創立75周年を迎えた喜びを込めた創作重舞「환희(歓喜)」で、金賞を受賞した中級部舞踊部。今年、部員たちは「가는 길 험난해도 웃음과 정성으로 돌우에 꽃을 피우리(道は険しくとも、石の上に花を咲かせよう)」というスローガンを掲げ、部活動に励んできた。朝鮮に伝わる二つのことわざを合わせたこのスローガンには「コロナ禍で困難が多くてもそれを口実にせず、意義深い部活動を送ろう」という意味が込められていると朴美稀主将(中3)は話す。
高級部同様に、コンクールへの参加を決めた中級部の部員たち。コロナ禍のなかで送った昨年の経験から、今年のコンクールには格別な思いで臨んだという。
「今年は練習だけでなく、コンクール本番まで含めたさまざまな場面が、いかに当たり前ではない貴重なものなのか、4人の部員皆が、その意味を噛みしめながら練習に励んだ」(朴さん)
今回、中級部舞踊部門では、各学校から1作品だけエントリー可能という条件があっただけに、金賞という結果は「飛び切り嬉しい」ものだった。
高級部に進学後も、舞踊を続けるという朴さんは「部活動の時間は、自分にとって欠かせない生活の一部だ。中2の部員がいないので、来年度は、いまの中1が一番の年長者になる。その後輩たちが中級部舞踊部をさらに輝かせることができるよう、サポートしたい」と力を込めた。
(韓賢珠)
〈第53回学生中央芸術コンクール〉作品に込めた思い③愛知中高声楽部
《朝鮮新報》2021.12.02
伝統継ぐ、渾身の作品
愛知中高声楽部は高級部重唱部門で「아무도 몰라」(誰も知らない)を披露し、金賞に輝いた。
同部は、今年1月に行われた声楽の技術向上を目的に愛知県合唱連盟が開催する「第27回愛知県ヴォーカルアンサンブルコンテスト~高等学校部門~」に出場し、金賞を受賞。その後、学生中央芸術コンクールでの金賞を目指して、新年度を迎えたが、新入部員はゼロだった。高3が5人、高2が1人で構成された愛知朝高声楽部のメンバーたちは「部の伝統を継ぎ、魅力のある部だということを後輩たちに示すには、中央コンクールで金賞を受賞しなければ」と、気持ちを切り替えて部活動に励んだ。
朝鮮戦争の時代を背景に作曲された「아무도 몰라」は、朝鮮の人民と人民軍の強固な信念と精神力を描いた作品。指導を担当する朴允嬉教員によると、部員たちは提案されたこの曲が「自分たちの歌声に合うと気に入った」という。
同部で技術的な指導を担当する金羽未さん(高3)は「今まではゆったりで暗い曲調の楽曲を歌うことが多かった」と、同曲のように明るく早いテンポの歌は初めてだったと話す。
「『아무도 몰라』は曲中に同じ歌詞が続くことが多いので、変化を意識しながら練習した。また愛知朝高声楽部は伝統的に発音がきれいだと評価される。発音の練習にも意識的に取り組んだ」(金さん)
コロナ禍で十分な部活動を行えないなかでも、部員たちは「金賞を受賞する」という目標を達成するため、思いを一つに練習に取り組んだ。こうして迎えた芸術コンクール当日。「自分たちの歌声を場内に響せることができた」(金さん)と、愛知朝高声楽部は渾身の出来を披露。「全員がやりきったという達成感に包まれた」(李美璃主将、高3)。
朴教員はこの日、伴奏をしながら生徒たちの作品を見守った。「中央コンクールを迎えるまで、さまざまな場でこの歌を披露したが、練習の半分以下しか実力を発揮できていなかった。当日は、のびのびと楽しみながら舞台に立っていた生徒たちの姿が印象的だった」(朴教員)。
11月6日にオンラインで行われた成績発表で吉報を聞き、李主将は「本当に嬉しかった」と振り返る。同級生や保護者から金賞を祝う言葉をかけられ、「やっとその実感がわいた」。
今月に行われる演奏会を最後に、高3の部員たちの部活動は一区切りとなる。李主将は「演奏会で美しい歌声を披露し、有終の美を飾りたい。その後も練習に参加するなど、関心を持ちながら声楽部を盛り上げていきたい」と力を込めた。
(全基一)
〈第53回学生中央芸術コンクール〉作品に込めた思い④西東京第1初中民族器楽部
《朝鮮新報》2021.12.03
「努力の伝統」守り
「後輩たちの存在なくして、ここまで頑張れることができなかった」「先輩たちが引っ張ってくれたおかげ」―。中級部民族器楽部門で唯一のW金賞受賞を果たした西東京第1初中の民族器楽部員らは、練習期間を振り返ってこう口にした。
コンクールではヘグム重奏「クンバムタリョン」と重奏「牧童と乙女」を演奏。練習時間が短いなかで2つの曲をマスターすることは並々ならぬ努力が必要だった。主将の李映緒さん(3年)によると、紆余曲折のなかでも目標を明確に定め、努力を続けることができたのが一番の大きな成果だという。
今年度「志純響心」という年間目標を掲げて練習に励んできた12人の部員たち。志を高く、純粋な気持ちで自身らの音楽を響かせようと、個人の技量はもちろん、チーム内の団結力を高める努力も怠らなかった。
特に部員たちがこだわったのは、演奏するうえでの「純粋さ」。「その時の気分に左右されず、どんな時も、楽器を手にしたら演奏を楽しむ純粋な気持ちひとつでいようと意識した」と、李主将は話す。
同部は現在、最高学年の中3が2人のみ。10人の後輩たちをどう引っ張っていくか悩んだ時期もあったという。時には意見の対立もあったが、いつもそばで支えてくれたのが中2の存在だった。李主将は「しんどい時こそ自分たちを信頼して付いてきてくれた。後輩たちがいたから、自分たちの未熟さに気付き、中3としての自覚を持つことができた」と振り返った。
一方、初めて芸術コンクールに出場した金珉芯さん(中2)は「人前で演奏するのが苦手で、舞台で100%の力を出し切れるか心配だった」という。昨年の大会は、感染拡大防止のため地方別に発表会の方式をとって行われたが、今年は賞が決められる。そんな重圧が立ちはだかったが「自分にしかできない演奏とは何か、楽しい演奏とは何かを追求し、先生や先輩たちの助けをもらえたおかげで、堂々と舞台に立つことができた」。演奏を終えると、感激のあまり涙をこらえきれなかったという。
これほど部員たちが熱心に演奏にこだわったのは、同部の「伝統」を守るためだという。同部には、歴代コンクールの成績が芳しいという表向きの伝統のみならず「努力の伝統」があると、指導員の権玲仙教員は語る。
「輝かしい賞を受賞した背景には、生徒たちの並々ならぬ努力がある。今年度の生徒たちも、その伝統を受け継ぐことのできた嬉しさを感じていると思う」。
李主将は「2年生たちなら、必ず部活の伝統を守ってくれると信じている」と期待を口にした。また、金さんは「部活でも、組織生活でも、模範になる存在になれるようこれからも練習に励みたい」と力を込めた。
(金紗栄)