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〈民族教育と朝鮮舞踊25〉連載を終えて
〈民族教育と朝鮮舞踊25〉連載を終えて
《朝鮮新報》2023.03.10
経験を次世代に
2021年1月から2年間、24回にわたり「民族教育と朝鮮舞踊」のタイトルで連載記事を書かせていただき、先ずは愛読してくださった読者のみなさまに感謝を申し上げたい。
20年の夏に朝鮮新報社編集局から依頼があり、当初は12回にかけて書いてほしいとのことであった。朝鮮学校では舞踊ソジョ(部活)が盛んで、民族教育においても重要な位置を占めているが、今までそれに関連した連載はなかったので、舞踊教育が行われてきた経緯や過程、逸話などに実体験を交えて、記録としても残る記事にできればとのことであった。
私は44年間の朝鮮大学校専従教員を経て、現在まで非常勤講師・舞踊教育研究室室長として計48年間この仕事に携わってきたので、直接経験してきたことを次世代に伝えることも大切だと思い書いてみることにした。ところが、一回の記事を2000字くらい、ましてや日本語で書くことには少し戸惑いもあった。はたして一回をその分量でまとめられるのか、朝鮮語ならまだしも日本語で正確に書けるのか、と心配がつのった。
12回の構成を組み立て、年代や固有名詞、数字などは後に資料ともなるよう正確に書くことを心がけた。だが、それだけでは味気ない記事になってしまう。それにまつわるエピソードやその時の自身の思いを書くと、毎回2倍くらいの分量になってしまい、調整するのにとても苦心した。また、記事の内容に沿った写真を探すため、古いアルバムを引っ張り出したり、新報社写真部に提供してもらったりもした。編集局からゆっくり書いても構わないとの言葉をいただいた5回目からは、一つひとつの事柄に対してじっくり書くことができた。それでも文字数をカットすることに変わりはなかった。
連載が始まってからはいろいろな方々の励ましもあり、振り返ってみると、稚拙な文章ではあるが書いて良かったと実感している。地方歌舞団の団員からは、「毎回記事を読んでスクラップしています」とか、同年配の方からは「記事、読んでいるよ。当時のことがとても懐かしく思い出される」などの感想をいただいた。ソルマジ(迎春)公演の参加者や音楽舞踊通信教育卒業生たちは、記事を読みながら当時の思い出を共有しているようであった。また、ウリハッキョで舞踊教育がどのように行われてきたのかをよく理解できるようになったとの感想も耳にすることができた。
私が連載記事を書くにあたっていつも留意していたのは、自身が直接関与し、その過程を知っていることについて書くということである。勿論、記録に残るので事実関係の正確さが求められたが、それには博士論文のために集めた資料群が役に立った。もともと記録や資料などを保管しておく性格なので、それをもとに事実や過程を書くのは苦にならなかった。連載に書ききれなかったテーマや内容は、また機会を見てまとめたいと考えている。
先代たちが築いた歴史
私は在日朝鮮人3世として日本で生まれ育ったが、自分自身のアイデンティティーを形成するにあたってウリハッキョで学べたこと、民族教育の最前線で教育者として、同胞社会の一員として働けたことはとても大切で幸せなことであったと考えている。特に、民族教育の発展と共にいろいろな歴史的場面に遭遇し、直接見て、聞いて、感じて、体験したことは、紛れもなく今日の私の財産となっている。
これから民族教育の中での舞踊教育をより発展させていくためには、何よりも日本で民族教育を行うための教育理念と実践が必要である。そして、朝鮮舞踊を通して児童・生徒たちを立派に育てるためには、教員たちの使命感や熱意、学校での舞踊教育の位置づけ、保護者をはじめ同胞社会全体の支援が不可欠であろう。
近年、保護者をはじめ教育関係者や同胞たちの舞踊教育に対する熱意は高く、日本の方々や南の同胞たちの関心も高まっており、子どもたちの舞踊公演や競演大会にも熱い応援がなされている。公益財団法人在日朝鮮学生支援会は、「トップアーティスト育成事業助成」の一つとして在日朝鮮学生の独舞競演等を支援してくれている。このように社会的、組織的、個人的に支援してくださる方々がいることはとても心強いことである。
民族教育とそれを取り巻く状況は、昔も今も厳しいことに変わりはない。だからこそ、民族教育の意義と価値をもっと積極的に、前向きにアピールすることが必要であろう。代を継いで朝鮮語や民族の歴史・文化を教育し、先進科学技術と国際感覚を備えた新しい人材を育成する上で、朝鮮舞踊を通した教育はとても有効な方法である。
解放後、在日同胞に注がれた祖国の温かい支援と配慮、総聯組織の指導のもとに、先代たちが苦労して手探りで築き上げた民族教育と朝鮮舞踊の普及・発展があったからこそ、若い世代がそれらを誇らしく思い、民族舞踊を通して自身の感情や思いを表現できるのである。
私は長い間舞踊教育に携わりながら、民族教育と舞踊教育の伝統を受け継ぎ、時代の要求に沿って継承・発展させていくために、今後も使命感を持って自身の役割を全うしていく決意を新たにしている。そして、次世代の舞踊教育者や舞踊関係者たちが、在日朝鮮舞踊の教育と舞踊活動の歴史を少しでも理解し、伝統を繋げてくれれば幸甚である。
最後に、長期にわたりこのような機会をくださった朝鮮新報社編集局、惜しみない応援と協力をくださった多くの方々に感謝の意を表したい。(終わり)
朴貞順(朝鮮大学校舞踊教育研究室室長)